「よっしゃ坊主、耳の穴かっぽじってようくお聞き」
「死んだ人の魂はさなぎがね、蝶になるようにして身体から離れて飛び立んだよ。
昔、こんなことがあった。
ドイツでたくさんの子どもたちが強制収容所に入れられたんだ。
子どもたちはあしたガス室に送られてみんないっせいに殺されることも知らずに、
押し込められたバラックの壁に自分のつめでひっかいて無数の喋ちょを描いたんだよ。」
「いいかい坊主、死ってのはね、重い重い体のさなぎを脱ぎ捨てて軽い軽い蝶になって
空に還っていくことなんだよ。だからおまえのお父さんもお前が想えばすぐそこにいる。
お前がな話しかければむこうも答えてくれるんだ。
いくら死んだ者のことを悔やんでも もう体には戻ってこない。
そのかわり自由に飛びまわれる魂はずっとお前を守ってくれる。」
「ずっとお前と一緒だ。いいかい?それが、存在するということなんだよ。
存在しない存在というものがこの世にはあるんだよ。存在しないからこそより強く存在できる。
それが死というものなんだ。」